電子書籍出版状況と購入者行動(米国)

日本の電子出版事業をサポートするために、42日に出版業者が共同で「出版デジタル機構」を発足させ、官民ファンドの()産業革新機構が150億円を出資することになりました。これにより日本における電子書籍のマーケットが拡大されることが期待されます。世界的に電子書籍の出版が拡大していますが、その中でも特にマーケットが広く、購入者も急増している米国に焦点を当て、出版状況や電子書籍購入者の行動傾向についての最近の調査結果をまとめてみました。

1. 米国出版社の状況

1.1. 販売状況

電子書籍の売上は2009年以降急激に増加し、2011年の売上高は2009年の5.72倍に達した。

 

2008

2009

2010

2011

売上高(100万ドル)

61.3

169.5

441.3

969.9

しかし、その伸びには鈍化の傾向が見られる。米国出版社協会(Association of American Publishers, AAP)の統計によれば*2009年の電子書籍の前年比売上高増加率は前年比177%2010年は160%2011年は120%で、増加率が鈍ってきている。2011年の月ごとの数字をたどってみても、前年比売上高増加率は第一四半期が159.8%6月が167%8月が116.5%10月が81.2%12月が72.1%で、この年の後半から増加率が徐々に減少していることがわかる**

*AAPに売上データーを報告した出版社のみの集計。電子書籍のマーケットはこれよりもかなり大きい。例えば、BookStats1,963社を調査し、153億ドルと計算している。

** 2011年の印刷書籍売上高は、前年に比べて3.2%減少した。

1.2. 出版社の電子書籍販売利益

2011年の大手出版社の収入はほぼ前年と同じであるにもかかわらず、主に電子書籍のおかげで利潤が上昇したことが、Bertelsmann社の「2011Annual Report」により明らかになった。例えば、世界中に4万タイトル近くの電子書籍を供給しているRandom House社は、収入は減少したが、営業利益は特に米国において上昇している。また、Pearson社の「2011Annual Report」によれば、Penguinの全売上高はほぼ変わらなかったが、電子書籍販売収入が倍増したおかげで、営業利益は5%上昇した。CBSの企業活動レポートは、Simon & Schuster社が収入は1%下落したにもかかわらず、減価償却前営業利益が28%上昇したと報告している。概して印刷書籍よりも電子書籍の方が収益性が高いことがわかる。その理由は、電子書籍の作成費の方が安いからではなく、返品が無いことや、倉庫保管費や配送コストがかからないせいであると考えられる。

1.3 今後の見通し

Forrester Research社は2011年末に、米国の出版収入の74%を占める出版社の経営幹部を対象に調査を行った。デジタル化に対して楽観的な経営幹部は82%で、2010年の89%よりわずかに減少したとは言え、大多数を占める。しかし、自社の将来にについて楽観的な見方をしたのは、2010年の51%に比べ、わずか28%しかいなかった。デジタル化という大変な仕事を開始した結果、それが実際に大変な仕事であることに気付いたことが暗示される。Forrester Research社のJames McQuivey副社長兼主席アナリストは、出版社が楽観的でない理由を3点挙げている。

(1) 経営幹部の54%が、2012年には刷書籍の売上が減少するだろうと回答した。ただし、著しく減少すると答えたのは5%に過ぎない。

(2) Amazon社が全力で取り組み、2012年にはAmazon社や他のオンライン書店が電子書籍の41%を販売するだろうと経営幹部は考えている。

(3) 書籍作成ツールやセルフ出版プラットフォームの出現により、コンテンツは出版社のコントロールから抜け出すだろう。

The United States Book Market
http://www.book-fair.com/pdf/buchmesse/buchmarkt_usa.pdf

E-book Bummer Growth Slower than Thought: ‘Incremental, Not Exponential”
http://moconews.net/article/419-e-book-bummer-growth-slower-than-thought-incremental-not-exponenti/

Industry Sales Rose 3.1% in 2010; Trade E-book Sales the Big Winner
http://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/industry-news/financial-reporting/article/48280-industry-sales-rose-3-1-in-2010-trade-e-book-sales-the-big-winner.html

Thanks To E-Books, Publishers Find Flat Is The New Up
http://paidcontent.org/article/419-thanks-to-e-books-book-publishers-find-flat-is-the-new-up/

Thanks to e-books, publishers’ revenues are down but profits are up
http://www.teleread.com/ebooks/thanks-to-e-books-publishers-revenues-are-down-but-profits-are-up/

eBook Survey Predicts ‘Quality’ as the Top Factor for 2012
http://www.dclab.com/press/press_20111227_dcl_digital_publishing_survey.asp

Survey finds publishers less optimistic about digital future
http://www.teleread.com/paul-biba/survey-finds-publishers-less-optimistic-about-digital-future/

Book Business Outlook For 2012: Hard Work Ahead
http://blogs.forrester.com/james_mcquivey/12-01-23-book_business_outlook_for_2012_hard_work_ahead

 2. 電子書籍購入の行動

2.1電子書籍購入者数

Bowker社と米国の書籍産業研究グループ(Book Industry Study Group, BISG)が共同で行った調査によると、電子書籍も購入した書籍購入者の数は、2010年の9%増に対し、2011年は17%増加した。これは、25%~30%は増加するとの予想からすると、かなり低い数字であるが、増加率はジャンルによって異なる。購入される書籍のうち、電子書籍が占める割合は、例えば、小説:26%、児童書:11%、料理本:3%で、大きな差がある。書籍購入者の74%は電子書籍を全く購入していないが、その中の14%の人々は電子書籍リーダーやタブレットを所有しているということが判明した。

 2.2熱心な購入者

1ヶ月に4点以上の書籍を購入する「power buyers」の行動に目を向けると、印刷書籍のpower buyerは、印刷書籍購入者の22%を占め、彼らによって53%の書籍が購入された(金額にすると50%)。電子書籍のpower buyerは、電子書籍の購入者の35%で、彼らによって60%の電子書籍が購入された(金額にすると48%)。全般的に、印刷書籍のpower buyerが電子書籍マーケットに参入するスピードは遅かった。その理由は、1) 価格(28%)、2) 理由なし(27%)、3) 時間が無い(25%)の順だった。その他、電子書籍リーダーへの抵抗感もあるように思われる。

Power buyers数

購入書籍

購入金額

 印刷書籍

22%

53%

50%

 電子書籍

35%

60%

48%

(Consumer Attitudes Toward E-Book Readingより作成)

 書籍マーケティング企業Verso Advertising社は、電子書籍リーダーに対する消費者の考えを調査した(2011年11月~12月)が、それによると、書籍購入者の半数は12ヶ月以内に電子書籍リーダーを購入する可能性は低いと答えた。Verso Advertising社のJack McKeown氏とDenise Berthiaume氏は、一年に10冊以上の書籍を買う熱心な書籍購入者が電子書籍リーダーに抵抗する理由を次のように述べている。

(1) 電子書籍リーダーは、印刷書籍に優る十分な相対的利点を提供していない。

(2)ディスプレーを眺めることによる疲労。

(3) 熱心な書籍購入者は本屋での発見可能性の経験を楽しむ。

 2.3 ティーンエージャーの購入行動

Bowker社のPubTrack Consumerが行った別の調査によると、ティーンエージャー(13~17歳)は他の年齢グループに比べて、電子書籍に対する抵抗感が強い。66%が印刷書籍の方を好み、電子書籍の方が良いと答えたのは8%しかいなかった。その理由として考えられるのは、彼らはソーシャルテクノロジーを利用して、友人と何かを話し合ったり共有したりするのが好きだが、電子書籍は、そういう意味ではソーシャルテクノロジーではない。電子書籍の理由には制限が多すぎると考えるティーンエージャーは、2010年には6%であったが、2012年には14%と倍増している。青少年向け書籍の売上が高くてもティーンエージャーが購入しているとは限らない。青少年向け電子書籍売上の32%は30~44歳グループ、35%は18~29歳グループによるものである。

Consumer Attitudes Toward E-Book Reading
http://assets.en.oreilly.com/1/event/73/Consumer%20Attitudes%20Toward%20E-Book%20Reading%20Paper.pdf

New Stats: Kids Find E-Books ‘Fun And Cool,’ But Teens Are Still Reluctant
http://paidcontent.org/article/419-new-stats-kids-find-e-books-fun-and-cool-but-teens-are-still-reluctant/

 3. 主要10か国の電子書籍購入傾向

Bowker社は、2012年初めに世界の主要国10ヶ国*における、人々の電子書籍購入傾向を調査し(Global eBook Monitor)、その結果を2012年3月に発表した。電子書籍の購入傾向が高い国は、オーストラリア、インド、英国、米国の4ヶ国で、これらの国では、回答者の20%以上が、過去6ヶ月以内に電子書籍を購入していた。日本はその率が8%、フランスは5%で電子書籍購入者の割合が最も少なかった。インドとブラジルでは、おそらく今後6ヶ月以内に電子書籍を購入するだろうと答えた人が50%を越え、インドでの電子書籍購入者は2倍に、ブラジルでは3倍に増大すると見込まれる。英国と米国では、回答者の約3分の1が近いうちに電子書籍購入する予定であると答えたが、フランスではその数は5分の1、日本はわずか7分の1に過ぎない。男女の差で見ると、ほとんどの国で男性の方が女性よりも電子書籍購入しそうに思われる。その差が最も大きいのはドイツで、過去6ヶ月以内に電子書籍を購入したのは、男性は18%、女性は8%だった。年齢差では、ほとんどの国で、年齢が多いほど電子書籍が少ない傾向が示された。書籍購入率が最も高い年齢層はインド、ブラジル、英国、米国、フランスは25~34歳で、オーストラリア、ドイツ、日本、韓国、スペインは18~24歳だった。

* オーストラリア、ブラジル、フランス、ドイツ、インド、日本、韓国、スペイン、英国、米国

Bowker Releases Results of Global eBook Research
http://www.prweb.com/releases/2012/3/prweb9336807.htm