貸出資料延滞への対策

日本では貸出資料の返却が遅れた場合に延滞金を徴収する図書館は、極めて少数ですが、米国や英国では多くの図書館が延滞金制度を採用しています。強引に取り立てる図書館もあれば、延滞金の代わりにコミュニティ・サービスを課したり、延滞者に対する恩赦措置を施したりする図書館もあり、その方法は一様ではありません。延滞金制度に疑問をもち、廃止する図書館も出てきています。しかし、延滞金に関する全体的な統計は米国にも英国にも見当たらず、延滞金制度を採用している図書館の数すら不明です。英国では、2005年にSCONUL(Society of College, National and University)メンバー図書館を対象とした調査が行われましたが、回答した1/3の図書館のうち96%が、延滞金制度があると答えています。

1.延滞金の徴収状況
米国でも英国でも、延滞金の額は資料の種類によって異なり、貸出期間の短い資料や視聴覚資料、そして返却要求された資料は、一般的な貸出図書に比べて高額に設定されている。公共図書館では、子供や高齢者に対しては、延滞金が無かったり、あったとしても低額であるなど、かなりのバラつきが見られる。

1) 米国
ほとんどの公共図書館や大学図書館が延滞金を徴収している。大学図書館では、一般図書の延滞金を1冊につき1日$25 (21円) *や$0.50 (43円)に設定している所が多いが、$0.10(9円)の図書館もあれば、Cornell大学のように$0.75 (64円)という図書館もある。ただし、返却されるまで際限無く延滞金が増え続けるとは限らず、上限を設けている図書館は少なくない。延滞本1冊に課される延滞金の上限額は、多くが$10~25 (850~2,125円)の範囲内だが、Pittsburg大学のように、$100(8,500円)という高額例も見られる。公共図書館は、概して大学図書館よりも低額に設定されており、ほとんどが$0.10~0.50の範囲で、$0.20あるいは$0.25の所が多いようである。上限を設けている図書館は大学図書館よりも多く、金額もほとんどが$10以下である。
$1=\85で計算

2) 英国
英国の大学図書館では、一般図書の貸出延滞金は、£20~30 (28~42円)**、上限は£5~30(700~4,200円)が多く、米国よりも多少幅が広い。多くの大学では、延滞金の未払いがあると卒業が妨げられるが、その金額は、Exeter大学の£5、Lancaster大学の£20(2,800円)、Glasgow大学の£25(3,250円)など、大学によってかなりの差がある。
**£1=\140で計算

2012年1月のGuardian紙によれば、英国では過去6年の間に、大学図書館が徴収した延滞金の総額は約£5千万(70億円)に達する。最も多額だったのはLeeds大学で£187万(2.6億円)、Manchester大学£130万(1.8億円)、Wolverhampton大学£125万(1.6億円)と続く。

2. 延滞図書返却をめぐる出来事(米国)
米国では、延滞図書の返却請求や延滞金取り立ての際に、強引な手段を取る図書館の話が、新聞・雑誌を賑わすことがある。

1) 延滞図書の返却を求めて、利用者の家に警察官を派遣(2012年)
マサチューセッツ州Charltonに住むB夫人の家を、公共図書館の依頼を受けた警察官が訪れた。5歳の娘が図書2冊を数ヶ月延滞していることを知らせるためである。母親は図書を返却したが、「娘は捕まると思い、おびえて泣き出した。図書館はやりすぎではないか。」とメディアに訴え、この件は全国的に知られることとなった。図書館は、問題にしたのは子供の図書ではなく、父親が2年近く前に借りたオーディオブック($100)であると説明している。夫人を含め、警官の訪問を受けたのは6ヶ月以上の延滞、または$100以上の資料を延滞した13戸で、延滞金総額は$2,634(21.5万円)に達する。図書館長は、税金で購入された図書館資料を保護するのは自分の役目であり、冷淡に裁判所に召喚するよりも、警察官が知らせる方がフレンドリーで優しいと考えると語った。返却期限を2週間過ぎると手紙/電子メール、1ヶ月後に請求書が送られ、警察官の派遣は最後の手段とされる。何も受け取っていないと主張する夫人と、数通の手紙を送ったと主張する図書館の主張は対立したままだが、図書館には賛否両論が寄せられた。

2) 図書延滞の罪で刑務所に収監(2011年)
(1) アイオワ州Newtonに住むA氏は、公共図書館から借りた資料27点、計$770.67(6.5万円)相当を延滞し、図書館が何度も電話と配達証明郵便で連絡しようとしたにもかかわらず、応答しなかったとして、窃盗の軽犯罪で郡刑務所に10日間収監された。図書館に対する$625(5.3万円)の支払い義務も残っている。

(2)ニューメキシコ州Portalesでは、T夫人が公共図書館から借りた$35.98(3,060円)相当の図書とDVDを返却しなかったとして、拘置所に一晩収容された。裁判所からの呼び出しに応じなかったため5人の子供の前で手錠をかけられて逮捕された夫人は、それらの資料を借り出した憶えはないと主張している。召喚状が旧住所に送られていたため、弁護士は、夫人は不法逮捕によって傷つき屈辱を受けたとして、法的手段に訴えると述べた。

3) DVDの延滞で19歳の少年を逮捕(2010年)
コロラド州Littletonでは、$30(2,550円)相当のDVDを延滞し、度重なる督促状と2度の裁判所への出頭命令も無視したとして、19歳の少年が逮捕されて問題となった。少年は、督促状も出頭命令も旧住所に送られ、手元には届かなかったと主張。市検事は、「$31.45(2,670円)以上の資料が返却されない場合は窃盗とみなす」規則の見直しを行い、少年の逮捕歴を抹消した。逮捕状を発行した判事は、その後解雇された。

3. 延滞金集金代行業者の利用
延滞金集金に関わる職員の時間を削減するために、集金代行業者を利用する図書館が増えている。延滞資料や延滞金の回収を業務とするUnique Management Service社(UMS)は、米国、カナダ、オーストラリア、英国の約1,400公共図書館と契約を結び、1996年以来、総額$2.5億(213億円)相当の資料・延滞金を回収した。その中にはサービスが良いことで知られる図書館も含まれている。UMSと契約を結んでいる大学図書館も少なからず存在する。UMSは通常$25(2,130円)以上(図書館が希望すれば$10~$24.99も可)を資料回収の対象とし、手紙、電話での連絡や延滞金の取り立てを行う。資料返却や延滞金支払いを120日以上拒む図書館利用者の名前(子供は除く)は、信用調査機関に報告される。図書館からは利用者1名につき$8.95(760円)がUMSに支払われる。UMSによれば、滞納金の平均は$100以下で、滞納者として名前が送られてくるのは、図書館メンバーの1~1.5%にすぎず、うち70%はUMSに応答してくる。信用調査機関に借金未払いの情報が知らされた場合、最高7年間、本人の信用格付けに影響したり、クレジットカードが更新できなくなる可能性があるため、このような措置に反対する意見もある。

例1) クリーブランド図書館(Cleveland Public Library)
”Library Journal”誌が選出する「スター・ライブラリー」の上位に毎年ランクされる、有名なクリーブランド図書館が、UMSと契約を結んでいる。返却期限の70日後、延滞金が$25を越えると、その利用者のアカウントはUMSに引き渡され、UMSが手紙や電話で返却を促し、その費用も延滞金に追加される。返却期限の190日後には、UMSは信用調査機関に通知することになる。契約が結ばれた2010年から2011末までに、UMSは$260万(2.2億円)相当の貸出資料と、$55万(4,680万円)の延滞金を回収し、経費として$89,000(757万円)を受け取った。

例2) クヤホガ郡図書館(Cuyahoga County library)
2010年から3年連続で「スター・ライブラリー」の1位を占めているオハイオ州クヤホガ郡図書館も、盗難よりも未返却による損害の方が大きいとして、セキュリティー・ゲートを廃止して、2010年にUMSと契約を結んだ。返却期限90日後にUMSに通知する。

4. 延滞者に対する恩赦措置(米国)
延滞金を払いたくない/払えない人々が、図書館の利用を完全に諦めてしまうのを避けるために、救済措置を施す図書館もある。

1) シカゴ公共図書館(イリノイ州)
シカゴ公共図書館は、2012年8月20日~9月7日を延滞者に対する恩赦期間とし、この3週間内に延滞資料を返却した利用者には、延滞金を免除する措置を取った。シカゴにある79の公共図書館には総額$140万(1.2億円)の未払い延滞金があり、その資料の価格は$200万(1.7億円)を超えていた。延滞金は、2010年からは1日$0.20(それ以前は$0.10)、上限は図書が$10、DVD、CDが$20である。恩赦期間を設けた目的は、(1) 支払えない程の延滞金を溜めてしまったため来館しなくなった利用者(特に子供)を再び図書館に引き寄せること、(2) 貸し出されたままになっていた資料を取り戻すことである。恩赦の効果はてきめんで、1934年に借り出された図書を含め、合計101,301点の資料が返却された。その価値は約$200万に達する。1985年に1週間の恩赦期間を設けた際には、77,000冊の図書が返却された。1992年には若者のみを対象とした恩赦も行われている。

2) ニューヨーク公共図書館(NYPL)
ニューヨーク公共図書館は2011年7月~10月、ブルックリン公共図書館、クイーンズ公共図書館と合同で、未払い延滞金が$15(1,280円)を超えた、17歳以下の青少年143,000名のみを対象に、延滞金を免除する措置を取った。ニューヨーク公共図書館では、未払い延滞金が$15を超えると貸出サービスが停止される。

3) サンフランシスコ公共図書館(カリフォルニア州)
サンフランシスコ公共図書館は2009年に延滞金の免除を行い、29,228点の資料を回収した。免除され延滞金の総額は$55,165(470万円)で、返却された資料の価値とほぼ同額である。

4) ハートフォード公共図書館(コネチカット州)
ハートフォード公共図書館は、2012年11月6日の大統領選挙投票日を、「延滞金帳消しデー」とした。当初、選挙当日に「投票済み」スティッカーを付けて図書館を訪れた利用者と、公民に関するアンケートに答えた子供やティーンエージャーに対して延滞金支払いを免除すると発表していたが、選挙権の無い市民もいることから、図書館に足を運んだ利用者全員に延滞金免除が適用された。

5. 延滞金徴収に代わる活動(米国)
延滞者がボランティアサービスや社会福祉活動をするのと引き換えに、延滞金の支払いを免除する図書館も米国には見受けられる。

1) ボランティアサービス、社会奉仕活動
(1) 「図書館友の会」によるボランティア活動に力を入れているミシガン州Charlevoix公共図書館は、未成年者に限り、ボランティアサービスをすることにより、一時間$7.5(640円)の計算で延滞金を帳消しにする制度を設けている。

(2) イリノイ州Crystal Lake公共図書館は、2011年11月1日~15日の期間、延滞金の少なくとも半額をFood Pantry(貧困者に食料を援助する施設)に寄付すれば、残りの延滞金を免除するプログラムを実施した。その結果、$6,500(55.3万円)がFood Pantryに寄付された。

(3) ニュージャージー州Ocean 郡図書館は、2012年7月に郡保健局と協力して、食品1点を寄付すると$0.5の延滞金が免除される”Food for Fines Campaign”を行った。寄付できる食品は、賞味期限内の缶詰や痛みにくい食品(パスタ、米、シリアル、豆など)で、最大$20の延滞金が免除された。2009年にキャンペーンを行った際には、総額20トンを超える食品が寄付された。

(4) University of North Texas図書館では、2011年秋学期と2012年春学期に、“罰金の代わりに食料を”運動が各2週間行われた。へこみの無い賞味期限内の缶詰(12オンス以上)を図書館に提供するごとに、$20を限度として延滞金などの罰金を$1免除し、缶詰は、大学が所在するDenton郡の奉仕団体“ Friends of the Family”に寄付された。その結果、秋学期には57名の学生が612個の缶詰を寄付して$571(48,500円)が免除され、春学期には58名の学生が691缶を寄付し$637(54,100円)が免除された。図書館は、この運動を学生と図書館が地域社会を助けるための革新的かつ楽しい方法であると自負している。

2) “Read down”プログラム
最近米国では、読書奨励を延滞金の免除に結びつける、“Read down”と呼ばれる制度が普及しつつある。子供のみを対象とする図書館や、一定の期間に限定する図書館が多いが、プログラムの内容はそれぞれに異なる。その中で3図書館の例を挙げる。

(1) ユタ州Salt Lake公共図書館では、延滞金を払えない18歳以下の子供が、閲覧室で読書をすると、読書時間10分ごとに$1が免除される。

(2) ニューヨーク公共図書館(NYPL)は、延滞金が$1,000(85,000円)を超えた利用者を除き、年齢を問わず誰もが参加できる“Read Down Your Fines ”プログラムを、2011年夏の7週間にわたって実施した。図書館Webサイト上で、プログラムに参加登録し、図書館資料(図書、雑誌、新聞、データベース、電子図書、オーディオブック)を館内/館外で読むたびに時間を記録すると、読書時間15分ごとに$1の延滞金が免除された。

(3) ミネソタ州Saint Paul公共図書館は2012年5~6月に、子供、ティーンエージャー、そして子供と共に読書をする大人を対象に、館内での読書15分ごとに、延滞金支払いに利用できる$1相当のクーポンを提供するプログラムを実施した。

6. 延滞金制度への賛否論
米国の図書館では、延滞金制度は何世代にもわたって行われてきた慣習であるが、延滞金を課すべきか否かの議論も常に行われている。マサチューセッツ州のように、近年延滞金制度を廃止する公共図書館が増えている地域もある。しかし、このような例は米国全体からみればまだ少数派である。

(1) 延滞金に賛成の意見
図書館の資料を借りる人は、一定期間その資料を持ち出すという契約を結ぶのであり、貸出期限を越えて手元に置きたい人は、その料金を払うべきであるとの考えや、機会費用の概念に基づき、1人の利用者が期限を過ぎても返却しない場合、他の利用者は長期間待たされるという迷惑を蒙るのであるから罰金を払うべきであるとの意見がある。また現実の問題として、米国の図書館の財政は厳しい状況にあり、財源としての延滞金収入はその重要さを増しつつある。延滞金を何に使うかは図書館により異なるが、例えば、コネティカット州のMilford公共図書館では、延滞金と破損/紛失資料の弁償金($27,500/年=230万円)が電子書籍の購入と開館時間の延長に当てられている。

(2) 延滞金に反対の意見
延滞金徴収は基本的にネガティブで懲罰的な業務であり、罰金を恐れる利用者の足を図書館から遠ざけることになるとして延滞金制度を避ける図書館がある。マサチューセッツ州にある人口約6,000名のDover Town図書館(2012年米国最優秀小規模図書館の最終選考図書館)は、図書館の目的は住民に便利さと親しみ易さを与えることであるとして、1997年に延滞金を廃止した。返却期限を過ぎても利用者には通知するだけである。その結果、年間$3,000~$5,000(26万~43万円)の収入を失うことにはなったが、利用者の好意を得ることができ、子供たちが多くの資料を借り出すようになったと報告されている。また、未返却資料を新たに注文・購入・整理するための人件費を考えると、延滞金制度を採らずに返却を求めた方が、結局は安くつくという意見もある。

1. 延滞金の徴収状況
Universities collected £50m in library fines, figures show
http://www.guardian.co.uk/education/2012/jan/07/universities-collected-50million-library-fines

2. 延滞図書返却をめぐる出来事(米国)
Charlton library defends overdue lending dragnet/ by Debbie LaPlaca
http://www.telegram.com/article/20120104/NEWS/101049937/0/NEWS03
Man serves 10 days in Iowa jail for overdue library books
http://www.digitaljournal.com/article/311512
Throwing the Book at Overdue Book Offender/ by Olivier Uyttebrouck
http://www.abqjournal.com/main/2012/06/28/news/throwing-the-book-at-overdue-book-offender.html
Colorado: Overdue DVD leads to arrest of teen
http://digitaljournal.com/article/288808

3. 延滞金集金代行業者の利用
Is the lifting of library fines long overdue?
http://www.csmonitor.com/2006/0525/p13s01-lign.html
Unique Management Services
http://www.unique-mgmt.com/
Cuyahoga County library budgets take hit from overdue materials more than theft
http://blog.cleveland.com/metro/2011/12/overdue_material_not_theft_is.html

4. 延滞者に対する恩赦措置(米国)
Chicago Public Library to waive overdue fines in first amnesty program in decades
http://www.suntimes.com/news/cityhall/14288243-418/chicago-public-library-to-waive-overdue-fines-in-first-amnesty-program-in-decades.html
Chicago Public Library Recovers $2 Million Worth Of Missing Library Materials During Amnesty Event
http://sciencegun.tumblr.com/post/31473415487/chicago-public-library-recovers-2-million-worth-of
An amnesty on overdue fines at all three NYC public library systems!
http://www.examiner.com/article/an-amnesty-on-overdue-fines-at-all-three-nyc-public-library-systems
Talking your way out of library fines
http://www.guardian.co.uk/books/booksblog/2009/jun/16/talk-out-library-fines
Hartford Public Library To Forgive Fines On Election Day
http://www.courant.com/community/hartford/hc-hartford-library-fines-1106-20121105,0,7973380.story

5. 延滞金徴収に代わる活動(米国)
Charlevoix Public Library Volunteer/Community Service Policy
http://www.charlevoixlibrary.org/sites/default/files/Volunteer.pdf
Library to offer discount on overdue fines
http://triblocal.com/crystal-lake/2011/10/26/library-to-offer-discount-on-overdue-fines/
Crystal Lake library donates to food pantry
http://triblocal.com/crystal-lake/2011/11/21/library-donates-to-food-pantry/
Get Rid of Library Fines with a Food Donation
http://brick.patch.com/articles/food-for-fines-campign-returns-to-ocean-county-libraries
Summer Reading: Read Down Your Fines
http://www.nypl.org/readdown
Reading down your debts in St. Paul: One week left in library program
http://www.tcdailyplanet.net/news/2012/06/08/reading-down-your-debts-st-paul-one-week-left-library-program

6. 延滞金制度への賛否論
Fines and Overdues
http://wikis.ala.org/professionaltips/index.php/Fines_and_Overdues
Library will get to keep overdue fines
http://www.ctpost.com/local/article/Library-will-get-to-keep-overdue-fines-3571026.php#ixzz1vUAD8NNa
Is the lifting of library fines long overdue?
http://www.csmonitor.com/2006/0525/p13s01-lign.html
Cuyahoga County library budgets take hit from overdue materials more than theft
http://blog.cleveland.com/metro/2011/12/overdue_material_not_theft_is.html