英国公共図書館閉鎖の危機

英国では近年公共図書館の閉鎖が続き、図書館界の大きな問題となっています(当サイト記事「フィリップ ・プルマン氏が図書館の閉鎖に反対」-2011年11月22日-参照)。失われた公共図書館の数は2012年だけでも200分館にのぼります。2013年には新たに300の分館が閉鎖されるのではないかと言われていますが、予測についてはさまざまな説があります。図書館員だけではなく、著名な作家たちも閉鎖に反対の声を挙げていますが、楽観できない状況のようです。

1. 図書館閉鎖の実態と予測

1) Chartered Institute of Public Finance and Accountancy(英国勅許公共財務会計協会, CIPFA)による調査

CIPFA年報によると、英国では閉鎖された図書館が、2010年~2011年は146館、2012年には201館と増え続け、その2年前には4,612館あった図書館の数は、4,265館にまで減少した。2012年4月1日以降、348図書館(うち47は移動図書館)が既に閉鎖または地方自治体の管理から離れたか、現在閉鎖の危機に瀕しているという状況にある。CIPFAが2012年12月に行った調査によれば、図書館閉鎖に伴い、ライブラリアン数も、2010年4月~2011年3月に4.3%、2011年4月~2012年3月に8%減少した。延べ来館者数は3億660万人で、5年前の3億2,800万人から6.7%の減少である。CIPFAは、2013年にはもっと多くの図書館が閉鎖され、1,100名の職員が職を失い、開館時間のカットは週1,720時間に及ぶものと予測している。Bradley会長は、来館者や貸出数が減少して、図書館不用論が正当化されることになるだろうとの暗い見通しを述べている。

2) Local Government Association(地方自治体協議会, LGA)の予測

イングランドとウェールズの373の地方議会で構成されるLGAは、2012年6月発表の報告書で、直ちに資金が投入されなければ、2020年までに公共図書館とレジャーセンターは消えてなくなるだろうと警告した。2010/11年から2014/15年にかけて、中央政府から受け取る資金が28%カットされ、地方議会は資金不足に陥る。それに加えて、社会介護や廃棄物処理サービスのコストなどは上昇を続け、控えめに見積もっても2019/20年までに165億ポンド(2兆5,350億円)が不足するため、このままでは、図書館を含む社会サービスを提供するための資金が枯渇するとの予測がなされている。

3) Chartered Institute of Library and Information Professionals(図書館情報専門家協会, CILIP)の予測

CILIPは、2011年3月に発表したレポート”Public Libraries Briefing“で、地方コミュニティーが公共図書館の運営に前向きに取り組まない場合、4,612ある図書館のうち、600を超える図書館が閉鎖する可能性があると指摘している。

4) 図書館支援活動家(Library Campaigners*)の予測

2013年7月に図書館支援活動家のグループは、2015/16年度の地方自治体予算が10%削減されれば、2016年までに400の図書館が閉鎖に追い込まれ、2009年からの閉鎖は1,000館を超えることを、政府が隠していると非難した。活動家グループは、2013年には340の図書館が閉鎖されると予測している。

*Library Campaigners:寄付や会員費を資金源とする登録チャリティ(NPO)。図書館の支援者や利用者グループの活動を通して、図書館を奨励、支援、援助、改善することにより、公衆の生涯教育を推進することを目的とする。

2. Ed Vaizey政務次官の言動

1)下院議員への報告(2012年3月13日)

2012年3月13日、CULTURE Minister(文化・コミュニケーション・クリエイティブ産業担当政務次官)のEd Vaizey氏は、図書館サービスの危機というものは存在せず、図書館サービスの変化に対しては現実的になる必要がある、と下院議員に語った。そして、すべての図書館に資格のあるライブラリアンを配置しようなどとしなければ、もっと多くの図書館を提供することができるし、ボランティアに図書館管理を任せることは、図書館サービスにとっては惨事どころか、好機であると述べた。ボランティア管理の図書館の方が、より長時間開館し、より地域社会に即した書籍を提供できるという意見である。

図書館支援活動家たちは、キャメロン首相が掲げるスローガン「大きな社会」*のボランティアが主導する図書館は持続不能であり、サービスの低下はもちろん、最終的には閉館をもたらすと批判の声を挙げた。影の内閣の文化大臣Dan Jarvis氏は、Ed Vaizey氏は目先のことしか考えておらず、600もの図書館が閉鎖されるのを容認していると批判し、重要な資産である図書館を救うために介入するよう政府を促し、非介入は、1964年公共図書館・博物館法(1964 Public Libraries and Museums Act)を踏みにじるものであると非難した。この法律は地方自治体が、地方コミュニティーに包括的で効率的な図書館サービスを提供するという法的要件に違反している場合、国務大臣が介入することを許可するものである。

*キャメロン首相は、多くの権限をボランティア団体、コミュニティ・グループ、地方自治体などに委譲することによって、社会的課題に対応する「大きな社会」(Big Society)を提唱。

2) Future of Library Services会議でのスピーチ(2012年6月28日)

Future of Library Servicesの会議で、Ed Vaizey氏は、イングランドでは図書館サービスが盛況であると賞賛し、CILIPによる600図書館の閉鎖という予測は的外れであって、実態はその1/10でしかないと主張し、図書館サービス危機説を再度否定した。図書館が芸術家や文化団体と協力して文化活動を行うための助成金計画や、2015年までに全図書館内に無線ランを設置する計画などについて語り、図書館は今後も法律に則ったサービスであり続けると強く主張した。

しかし図書館支援の運動家たちは、600図書館閉鎖の予想が実現化しなかったのは、人々が法的手段、ピケ、抗議、ロビー活動など、目覚しい反対運動を行ったからであり、Ed Vaizey氏の甘言にはだまされないと反発している。

3) 図書館閉鎖に関する書簡(2012年9月3日)

Ed Vaizey氏は、15館中5館が閉鎖されたマンチェスター市Bolton地区、11館中5館がボランティアに引き渡されたれたワイト島、同じく12館中5館がボランティアに引き渡されたロンドン市Lewisham地区、の3自治体に書簡を送った。どれも同じような内容で、政府は現在、図書館閉鎖を防止したり、介入したりする気はないというものであった。その理由として以下の数字を挙げ、これらの地方自治体が政府の図書館政策に違反しているとは思われず、調査を開始する正当な理由は見当たらないと結論付けている。

(1) マンチェスター市Bolton地区

資料を借り出す人々の87%は、現在残っている10館を利用している。5館が閉鎖されても、全住民の96%は図書館から2マイル以内に住んでいる。

(2) ワイト島(Isle of Wight)

5館の管理がボランティアに任される以前、来館数の82%は、現在も自治体が運営している6図書館を利用していた。ワイト島自治体が包括的で効率的な図書館サービスの提供を続けるものと政府は信じる。

(3) ロンドン市Lewisham地区

Lewisham地区自治体が運営する7館の開館時間は、2009/2010年と比べて、不変ないしは改善された。

図書館支援の運動家からは、1/3から1/2近くのサービス拠点が喪失したことは、通常は重大な問題と受け止められるのにもかかわらず、介入するには値しないと書簡が主張している、と批判の嵐が巻き起こった。2009年に、マージーサイド(Merseyside)州Wirral地区で11図書館の閉鎖が計画された際には、住民の強い要求を受けた当時の文化、メディアおよびスポーツ大臣Andy Burnham氏(労働党)は介入することを決め、調査を命じた。その結果図書館の閉鎖が撤回されたという経緯があることから、今回も運動家たちは政府の介入を望んでいる。

3. 文化・メディア・スポーツ特別委員会の報告書

Vaizey氏の上記書簡から2ヵ月経った2012年11月6日、英国議会下院の文化・メディア・スポーツ特別委員会(Culture, Media and Sport Committee)が、公共図書館に関する報告書を発表した。報告書は、経費削減の圧力の下で、図書館サービスへのニーズや、利用可能なさまざまな選択肢を適切に考慮することなく計画を練り、その結果、「包括的で効率的な」図書館サービスを提供するという法律上の義務を怠る危機に陥っている地方自治体(名指しはせず)がある一方で、図書館サービスを継続するために、革新的で費用効果的な方法を見出している自治体もあることを指摘した。特別委員会は次のように述べている。

(1) 包括的で効率的なサービスを提供するには、必ずしも現存の図書館・分館のすべての開館を継続すべきであるというわけではない。

(2) 図書館は多くの場合、地方コミュニティーのハブである。図書や情報への電子アクセス以外にも、広範囲な活動を提供しており、建物や資源を他のサービス提供者と協力することで、コミュニティーサービスを強化することができる。

(3) 分館を十把一からげにボランティアグループに引き渡すことは、法律上の基準を満たすと考えられないが、ボランティア運営の図書館は有益であり得ると思われる。

(4) ボランティアに運営を委譲した自治体は、必要なサポートを与え続けなければならない。

(5) Londonの例に見られるように、地方自治体間の共同・協力の余地がある。

図書館予算カットの累積的な影響について、Ed Vaizey氏はさらなる報告書を2014末までに提出することを約束した。しかし、図書館を支援するグループ”The Library Campaign”は、「それでは遅すぎる。図書館は既に取り返すことのできないダメージを受けており、厳しいカットを受けるこれからの2年間に、事態がどう進むかを考えるのも恐ろしい」と批判している。運動家の1人で、出版社Faber & Faberの元ダイレクターDesmond Clarke氏は、「報告書は、自治体が間違った理由で図書館を閉鎖するのを妨げることはできない」と指摘した。Ed Vaizey氏に対する不信の声は少なくなく、CILIP(図書館情報専門家協会)の中には、2013年9月に開催される年次大会での不信任投票を呼びかけているグループもある。

1. 図書館閉鎖の実態と予測

UK lost more than 200 libraries in 2012 http://www.publiclibrariesnews.com/about-public-libraries-news/information-libraries-2012

Public Libraries News http://www.publiclibrariesnews.com/about-public-libraries-news/information

Many council services will disappear by 2020, report warns http://www.guardian.co.uk/society/2012/jun/26/council-services-disappear-2020-report

Library campaigners predict 1,000 closures by 2016 http://www.guardian.co.uk/books/2013/jul/12/library-campaigners-1000-closures-2016

2. Ed Vaizey政務次官の言動

Ed Vaizey says libraries ‘thriving’ and rejects prediction of 600 closures/ Guardian Jun. 29, 2012 http://www.guardian.co.uk/books/2012/jun/29/ed-vaizey-libraries-600-closures

Speech to The Future of Library Services conference https://www.gov.uk/government/speeches/speech-to-the-future-of-library-services-conference

Local inguiQL_into library provision on the Isle of Wight https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/120719/local-inquiry-letter-d-pugh-iowight-030912.pdf

Library closures attract little sympathy from Ed Vaizey http://www.guardian.co.uk/books/2012/sep/05/library-closures-ed-vaizey

Libraries aren’t in crisis, says Vaizey http://www.oxfordmail.co.uk/news/9587344.Libraries_aren_t_in_crisis__says_Vaizey/3.

3. 文化・メディア・スポーツ特別委員会の報告書

Culture, Media and Sport Committee – Third Report: Library Closures” http://www.publications.parliament.uk/pa/cm201213/cmselect/cmcumeds/587/58702.htm

Council plans for libraries risk failure to comply with legal obligations, says Committee http://www.parliament.uk/business/committees/committees-a-z/commons-select/culture-media-and-sport-committee/news/121106-library-closures-rpt-pub/

Irate UK librarians call for no confidence vote on Minister Vaizey http://www.teleread.com/library/irate-uk-librarians-call-for-no-confidence-vote-on-minister-vaizey/

Council plans for libraries risk failure to comply with legal obligations, says Committee http://www.parliament.uk/business/committees/committees-a-z/commons-select/culture-media-and-sport-committee/news/121106-library-closures-rpt-pub/