ファーガソン市民を支える公共図書館

米国では、警察官が黒人男性(1人は子供)を死亡させる例が相次ぎ、抗議の声が高まっています。1213日(日)には、ワシントンD.C.、ニューヨーク市、ボストン市、バ―クレー市を含む全米各地で、抗議デモが行われました。問題になった事件の中でも、最も注目を集めたのが、今年(2014年)8月、ミズーリ州セントルイス郡にあるファーガソン市で起きた事件です。武器を所持していなかった黒人少年を、白人警官が射殺したことに対して、暴力を伴う抗議活動が起きました。そして1124日、大陪審がその白人警官に対して不起訴の判断を下したことから、人種差別だと反発する人々の一部が再び暴徒化し、略奪や放火が行われました。一連のニュースは世界中に広がりましたが、その割に知られていないのが、米国全土から賞賛を受けている、騒動の中で公共図書館がとった行動です。

1.    事件と抗議運動の軌跡

18才の黒人少年、ブラウンさんが射殺された事件が起きたのは、89日(土)である。その翌日から抗議デモが始まり、それは次第に暴徒化していった。13日には警察がゴム弾や催涙ガスを使用したことにより、抗議者たちの怒りが強まり、事件1週間後の16日にはニクソン州知事が、セントルイス郊外に、真夜中から午前5時までの外出禁止令を発するに至った。しかし、抗議活動は止まず、その2日後、州知事は州兵を配置して、外出禁止令を撤回した。21日になって、ようやく秩序が回復し、州兵の撤退が始まった。

事件から3か月半経った11月24日(月)夜8時過ぎ、白人9名と黒人3名で構成された大陪審は、黒人少年を射殺した白人警官の不起訴を言い渡した。州知事は、大陪審の決定が発表される前の11月17日に、ファーガソン市とその周辺地域に、30日間の非常事態を宣言し、不測の事態に備えていた。しかし不起訴のニュースは、ファーガソン警察署の前に集まっていた数百名の人々の間に新たな怒りを引き起こし、暴動鎮圧用の装備を身に着けて一列に並んだ警官に向けて、プラカードなどが投げつけられた。その後、オフィスの窓が割られたり、警察の車や建物に放火されるなど暴力行動が次第にエスカレートしたため、警察は群衆に対して、発煙筒や催涙ガスを発射し、真夜中過ぎに州知事は、警察署を守るために州兵を増強するに至った。

2.   図書館による住民支援8月の事件直後の支援

1)   セントルイス近辺の公立学校では、814日(木)から新学期が始まることになっていたが、ファーガソン市と、隣接のフローリッサント市の公立学校は、騒動による危険への懸念から、新学期の開始日を、25日(月)に延期することを余儀なくされた。そこでこの期間、行く場を失った子供たちとその家族のために、ファーガソン市公共図書館(Ferguson Municipal Public Library: FMPL)は、学校の教師たちと協力して急きょ、図書館内に「特別学校」を設け、教育サービスや創造的なプログラムを準備したのである。数人の図書館員と教師が、手作りの看板をかかげて、図書館の外に立ち、子供たちを図書館に連れてくるよう、住民に呼びかけた。それに加え、ツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどを駆使して、図書館を騒動からの避難所として利用するよう、あらゆる年代の人々に呼びかけた。図書館の「特別学校」では、子供たちを学年ごとのグループに分け、現役教師と退職教師が、午前中は数学と科学、午後は芸術を教えるというプログラムを実施した。子供たちに工作を指導した地域のグループもいた。図書館を訪れた子供たちの数は、最初の日は12名にすぎなかったが、テレビ局も呼びかけに参加したこともあり、翌日は、子供40名と大人12名に増えた。21日には150名もの子供たちが訪れたため図書館が手狭になり、近くの教会も使用するほどであった。Operation Food Search*の協力を得て、子供たちには無料ランチが提供された。

 セントルイス郡図書館のフローリッサント・バレー分館でも、819日に家族向けのプログラムを開始し、画材、ボードゲーム、レゴなど、親子で楽しむ活動が行われた。ここでもOperation Food Searchの無料ランチが提供された。

* Operation Food Search: 飢えの問題に取り組む団体。ミズーリ州とイリノイ州のパートナー団体を介して、食物を必要とする人々に分配する。

2)    11月の不起訴処分発表後の支援

セントルイス地域の公立学校は、不起訴処分が発表された1124日(月)の夜に、翌日の休校が決められ、結局、Thanksgiving Day(感謝祭)休暇が含まれる、その週いっぱい休校とされた。FMPLで、ただ一人のフルタイム図書館員であるScott Bonner氏が、休校の発表を聞くや否や、再びソーシャルメディアを通して援助を求めたところ、火曜日には教育NPOであるTeach for America*などの団体から50名を超えるボランティアが応じた。その結果、前回の際の数にはおよばなかったものの、多数の参加者を図書館に迎え入れ、近隣住民のために安全な場所を提供することができた。直接的な支援に加え、セントルイスの高等学校の図書館員Voss氏は、ブラウンさん事件とその余波に関連する情報を提供するために、論文、図書、データベースなどの資料を集めたサイトLibGuideを開設した。

* Teach for America: 大学の学部卒業生にトレーニングを施し、米国内の貧しい地域の学校に2年間、教師として送り出すプログラムを実施している。

3.    図書館への支援殺到

1124日以降、ミズーリ州のみならず米国全土から、FMPLに対する支援が殺到し、わずか2週間の間に、寄付金の総額は35万ドルに達した。FMPLの年間予算40万ドルにわずか5万ドル足りない金額である。この巨額の寄付金の使い方について尋ねられたBonner氏は、「現在は自分以外にはパートタイムの図書館員が12名いるだけなので、フルタイムの児童図書館員を雇うことを一番の目標にしている」と答え、古いコンピュータとカーペットの買い替えも示唆した。

支援は寄付金にとどまらない。8月にFMPLが生徒たちのために開館した際、ニューメキシコ州ロスアラモス郡図書館システムの若手図書館員は、ツイッターで図書寄贈を呼びかけるキャンペーンを始め、「Wishlist for FMPL on Powell’s」を創設した。キャンペーンは大成功で、書棚のスペースを確保するために、今ある蔵書を他の図書館に送らなければならないほど多数の書籍が寄贈された。作家たちも賛同し、署名本を送るなどして、図書館支援を呼びかけている。

参考資料

1. 事件と抗議運動の軌跡

Tracking the Events in the Wake of Michael Brown’s Shooting http://www.nytimes.com/interactive/2014/08/12/us/13police-shooting-of-black-teenager-michael-brown.html?_r=0

Protests Flare After Ferguson Police Officer Is Not Indicted http://www.nytimes.com/2014/11/25/us/ferguson-darren-wilson-shooting-michael-brown-grand-jury.html

Ferguson Library Provides Calm Refuge for a Torn Community http://lj.libraryjournal.com/2014/11/public-services/ferguson-library-provides-calm-refuge-for-a-torn-community/

2.    図書館による住民支援

Ferguson Libraries Step Up to Serve Community in Turmoil http://lj.libraryjournal.com/2014/08/public-services/ferguson-libraries-step-up-to-serve-community-in-turmoil/

Ferguson Public Library Offers Lessons for Students in Limbo http://www.slj.com/2014/08/public-libraries/ferguson-library-offers-learning-for-students-in-limbo/#_

Ferguson’s Safe Haven: Library becomes refuge during unrest http://www.americanlibrariesmagazine.org/article/fergusons-safe-haven

St. Louis School Librarian Offers LibGuide on Ferguson http://www.slj.com/2014/11/collection-development/st-louis-school-librarian-offers-libguide-on-ferguson/#

Ferguson Library Provides Calm Refuge for a Torn Community/ Library Journal Nov 25, 2014 http://lj.libraryjournal.com/2014/11/public-services/ferguson-library-provides-calm-refuge-for-a-torn-community/

LibGuide http://www.micds.libguides.com/ferguson

3.    図書館への支援殺到

Ferguson Book Gifts Grow; Library Donations over $350,000 http://www.stltoday.com/entertainment/books-and-literature/book-blog/ferguson-book-gifts-grow-library-donations-over/article_e615d477-e5ef-5914-a654-262b9e35cf8b.html