米国のブックレス図書館

米国では電子書籍出版の増加に伴い、「ブックレス図書館」あるいは、「デジタル図書館」と呼ばれる図書館が、2000年ごろから大学図書館に出現し始め、2013年には公共図書館にも、初めての「ブックレス図書館」が開館した。しかし、ブックレス化への歩みは、当初予測されたよりもゆっくりとしており、しかも現在のところ、印刷書籍を一冊も置かないという完全な「ブックレス図書館」は、ほんの少数に過ぎない。

1. 大学図書館

大学図書館におけるブックレス化の動きは、2000年のカンザス州立大学が最初だと言われる。その後、科学・工学分野でブックレスを目指す動きが広がった。現在、「ブックレス図書館」と呼ばれるものは大学図書館が一番多いが、そのほとんどは、多数の印刷資料を処分はしたものの、皆無という状態ではない。完全な「ブックレス図書館」と呼べるのは、テキサス大学サンアントニオ校の応用工学・テクノロジー図書館と、フロリダポリテクニック大学の図書館の2館のみである。印刷書籍が多少残された「ブックレス図書館」は現在、カンザス州立大学、スタンフォード大学、カリフォルニア大学などにある。ジョンズ・ホプキンス大学のように、ブックレス化の計画が中断に追い込まれた例もある。

 1) 完全な「ブックレス図書館」

(1) University of Texas at San Antonio (UTSA) テキサス大学サンアントニオ校

大学における最初の完璧な「ブックレス図書館」は、テキサス大学サンアントニオ校の、応用工学・テクノロジー図書館(Applied Engineering and Technology (AET) Library)である。20103月に非公式に公開され、6ゕ月後の99日に公式オープンした。AET図書館は、テキサス大学サンアントニオ校のメインキャンパスにあるJohn Peace図書館のサテライト・ライブラリーとして、College of SciencesとCollege of Engineeringの学生にサービスを提供することをミッションとしている。開設時のコレクションは、電子ジャーナル18,000タイトル、電子書籍425,000タイトルなどだったが、3年後の2013年3月には、電子ジャーナルは50,000タイトルに、電子書籍は100万タイトルに増加し、470のデータベースが数百万の論文、データセット、ビデオ、会議資料などを提供するに至った。これらの資料は、コンピュータ、タブレット、スマートフォンを使用して、学内外のどこからでも利用することができる。AET図書館内であれば、パスワード無しにアクセスすることが可能である。

2012年の電子書籍貸出数は50万件を超えた。図書館には80席あり、学習室、デスクトップ・コンピュータ10台、プリンター1台、スキャナー1台、大型液晶スクリーン5台が備えてあり、グループスタディー室も3室ある。電子書籍リーダーを持っていない人たちのために、人気のあるSTEM(科学・技術・工学・数学)分野のいくつかの書籍をダウンロード済みの電子書籍リーダーも、貸出用に用意されている。科学や工学関係の印刷書籍はJohn Peace図書館にあり、リクエストすれば2時間以内にAET図書館に届けられる仕組みである。科学・工学専門のライブラリアンが、レファレンスサービスや研究相談に応じるために待機しているほか、科学・工学専攻の学生も研修を受けて、ライブラリー・アシスタントとして、レファレンスサービスの一端を担っている。授業期間中の利用者数は、一週間に1,900名ほどである。

 (2) Florida Polytechnic University (FPU) フロリダポリテクニック大学

科学、技術、工学、数学のみのコースを提供するフロリダポリテクニック大学(FPU)は、フロリダ州立大学(Florida State University)システムの中では最も新しく20148月に開校した。図書館は、135,000タイトルの電子書籍を有する完全な「ブックレス図書館」である。印刷書籍が必要な場合はフロリダ州立大学システムのILLサービスを利用することができる。図書館の総予算50万ドルのうち6万ドルは、図書館が所有していない電子書籍を学生が読むための費用に充てられ、その書籍が2度読まれた場合は自動的に購入される。現在はフロリダ州立大学システムの電子書籍コレクションにアクセスできないが、機会があれば、電子書籍共有システムに参加することも考慮中である。電子ジャーナルは、FPU自身が購読しているタイトルに加え、Florida Virtual Campus*を介して、65以上のデータベースからもアクセスすることができる。図書館にはデスクトップ・コンピュータが30台と、貸出用のラップトップとタブレットが各12台用意されている。

FPUは、学生にデジタル資料を検索し、読み、吸収し、管理し、デジタルリサーチを行う技術を身に着けさせることを目標としており、館長と、6名からなる図書館職員チームに加え、学生や教員のリサーチを手助けする2名のフルタイムライブラリアンと3名のパートタイム職員、ITデスクの職員1名が配属されている。論文のハードコピーを欲しがる学生のためにプリンターは用意されているが、学生はそれを利用するよりも、“Build Your Own Poly Library”システムを使って、自分のリサーチ情報を電子的に整理することを勧められる。

 学生や教職員は印刷書籍を全く利用できないわけではない。実のところFPUには、近隣の研究所図書館などから譲られた印刷書籍約14,000冊があり、その利用方法を検討中である。また、近くのポーク州立カレッジ(Polk State Collegeが所蔵する95,000冊や、州立大学図書館システムの600万冊を利用することが可能である。

* Florida Virtual Campus:フロリダ州の公立大学に対してサービスを提供してきた4団体(College Center for Library Automation、Florida Center for Advising and Academic Support、Florida Center for Library Automation、Florida Distance Learning Consortium)によって、2012年7月に設立された大学支援機関。

2) ブックレスを目指す図書館

(1) Kansas State University カンザス州立大学カンザス州立大学のFiedler Engineering Libraryは、2000年10月にほぼブックレスの図書館として開館した。資料はオンラインデータベースと2,000タイトルを超える電子書籍で構成され、印刷体資料は、少数のレファレンス資料と、印刷体でのみ入手可能な逐次刊行物に限定される。貸出用のラップトップは館内で利用できる。 

(2) Stanford University スタンフォード大学

スタンフォード大学工学図書館(Frederick Emmons Terman Engineering Library)は、2010年に新しい建物に移動した際、スペースがそれまでの約1/4に縮小されたこともあって、70,000冊の印刷書籍を学外の保管庫に移し、「ブックレス・ライブラリー」と名付けて8月2日に再オープンした。しかし、図書館には約10,000冊の印刷書籍が残されており、厳格にはブックレスとは言い難い。実際、Helen Josephine館長は、図書館のモットーは「less booksであってbooklessではない」と語っている。図書館には、28のデータベース、1,200タイトルの電子ジャーナルなどがあり、貸出用の電子書籍リーダーも備わっている。レファレンスサービスは、館内にデスクを設けず、電子メール、チャット、フェースブックを通して行われる。

(3) University of California, Merced カリフォルニア大学マーセド校

カリフォルニア大学マーセド校図書館の書籍の大半は電子書籍だが、今でも10万冊の印刷書籍がある。それに加えて、カリフォルニア電子図書館(California Digital Library: CDL)を通して約400万タイトルの電子書籍と12万冊の印刷書籍の利用も可能である。図書館にはノートパソコン48台、ワークステーション10台、高解像度スキャナー2台などが備わっている。

 (4)  Johns Hopkins University ジョンズ・ホプキンス大学

ジョンズ・ホプキンス大学のWelch Medical Libraryは、物理的な図書館の消滅を試みたものの、実施を前にして、少なくとも当分の間は撤回した例として知られる。この図書館は、近年来館者数や印刷書籍の貸し出しが減少し、オンライン資料のダウンロード数が激増してきたことから、40万冊の書籍を除去し、2012年1月から物理的スペースを完全に閉ざして、すべてオンライン化すると発表した。しかし、この計画は延期され、再検討の後、物理的スペースは当分の間残されることになった。。現在は、電子ジャーナル7,000タイトル、データベース400、電子書籍11,000タイトル、ビデオ2,000タイトルに加え、書籍、雑誌など数千の印刷資料も残されている。

2. 公共図書館

2013年9月、公共図書館としては最初の完全な「ブックレス図書館」BiblioTech Digital Libraryがオープンし、米国のみならず世界中に大きな話題を提供した。それ以前にも二つの「ブックレス図書館」計画があったのだが、どちらも実現には至らなかった。先ず、2002年にアリゾナ州のツーソン市は、Santa Rosa分館をデジタル資料のみの図書館にしようと企てたが、6年後には、住民の強い要求により印刷書籍を加えざるを得なくなった。9年後の2011年には、カリフォルニア州のニューポートビーチ市が分館の一つを「ブックレス図書館」にすることを提案したが、市民の反発を受けて断念した。新しい動きとしては、現在ネブラスカ州でNPOによる「デジタル図書館」の設置が計画されている。

1) BiblioTech Digital Library(テキサス州ベア郡)

240万ドルの費用をかけて作られた、米国初のブックレス公共図書館BiblioTechが、2013年9月14日、テキサス州ベア郡のサンアントニオ市にオープンした。人口140万人の大都市であるサンアントニオ市は、リテラシーのレベルは全米で60番目と低く、BiblioTechは、インターネットにアクセスする手段がない住民が、全人口の75%を占める地域に設置された。

BiblioTechは3M Cloud Libraryの電子書籍25,000タイトルの他、新聞、雑誌、オーディオブック、様々なデータベースを提供する。来館者用のコンピュータ(iMac48台のほか、タブレットや貸出用の電子書籍リーダー(2週間の貸出)が800台あり、子供たち用に、年齢層別に150タイトルがプレインストールされた、Nookの電子書籍リーダーも準備されている。オープン後1年の間に、35,000名がメンバー登録し、訪問者数は103,000名を超え、電子書籍の貸出数は67,569を記録した。メンバー登録者は2014末には45,000名を超えた。印刷書籍が無いことに対する苦情は無いとのことである。

開館4ゕ月後の2014年1月には、年に75,000名の陪審員候補が招集されるベア郡裁判所の陪審室に、サテライト分館が設置された。2名の職員が配置された貸出カウンターには200台の電子書籍リーダーが用意され、キオスク端末から電子書籍を借りることができる。

2015年夏には、サンアントニオ市の住宅公団と提携して、2つ目の分館を市の西部に広がる公営住宅団地にオープンする計画が進行している。ベア郡は、低所得者向け住宅プロジェクトで建設される建物を住宅公団から年1ドルで賃借し、分館とする。一年目の総経費は50万ドル、規模は最初のBiblioTechの半分程度になる予定である。ベア郡は、次はサンアントニオ市の東部にもBiblioTechを作ることを考慮している。

2) Omaha Public Library(ネブラスカ州オマハ市)

ネブラスカ州ダグラス郡の最大都市であるオマハ市のNPO、Heritage Services(文化遺産サービス)が、デジタル図書館設立の計画を2014年12月に発表した。オマハ市の全住民に最新のデジタル情報、テクノロジー、教育へのアクセスを提供することを目的とし、400万ドルで購入済みの閉店した書店をデジタル図書館に改装計し、2015年秋に開館の予定である。運営は、Heritage Servicesが設立するNPOトラスト、Community Information Trustが担う。改装費と最初の4年間の運営費は、個人の寄付によって賄われることになっている。オマハ公共図書館(Omaha Public Library)が、プログラムやコンテンツを開発に助力し、メトロポリタン・コミュニティ大学(Metropolitan Community Collegeが、利用者へのトレーニングや授業を提供する。

デジタル図書館には、世界のデータベースにアクセスできるコンピュータ、インタラクティブなお話の時間のための子供エリア、デジタル環境で創作を行うイノベーションラボ、3Dプリンターを備えた製作エリアなどが作られる予定である。しかし、どのようなコンテンツが開発されるのかは、まだ明らかにされていない。ダグラス郡の住民は、デジタル図書館を無料で利用できるが、それ以外の住民は年間75ドル、あるいは4ヵ月25ドルを支払わなければならない。利用の際はオマハ公共図書館のメンバーカードが必要となる。

3. 学校図書館

Cushing Academy(高校)の図書館が2009年に、「ブックレス図書館」になり、学校図書館界にセンセーションを巻き起こし、その後、Cushing Academy、などがこれに続いた。

1) Cushing Academy(高校)

マサチューセッツ州アシュバーンハム(Ashburnham)にある、学生数500名足らずの私立高校、Cushing Academy(共学ボーディングスクール)は、4年にわたる準備期間を経た2009年9月に、2万冊超の蔵書のほとんどを、地域の図書館に寄付するなどして処分し、データベースに置き換えたことを発表した。145,000タイトルの電子書籍に加え、学術ジャーナル論文、電子書籍、画像・フィルムなど2,400万点を超える資料をデータベースから得ることができる。図書館の書棚が占めていたスペースは、グループ学習室、共同研究室、ラボ、コンピュータ席、コーヒーバーなどのオープンスペースにとってかわられ、200台の電子書籍リーダーが用意された。その結果、図書館の利用が増加し、ライブラリアンも1名増員された。

2) BenildeSt. Margaret’s School(中・高校)

ミネソタ州ミネアポリス市にある、学生数1,200名の私立学校、BenildeSt. Margaret’s Schoolの図書館は2011年、蔵書5,000冊のほとんど全てをアフリカの学校に寄付し、デジタル学習センターとして、ノートパソコンを用意し、デジタル資料の提供を始めた。電子書籍は、20万タイトルにアクセス可能である。しかし、印刷資料を完全に排除しているわけではなく、少数のレファレンスブックなどは図書館に残された。カリキュラムに必要な印刷書籍は、教師たちが教室に引き取った。小説類については、生徒たちが印刷体の方を好むことから新たに購入し、これも教室に置かれている。学校の半径24km以内に50の公共図書館があり、ライブラリアンは、生徒が印刷書籍をオンライン・リクエストするのを手助けする。

 参考資料

1. 大学図書館

1) 完全な「ブックレス図書館」

(1) University of Texas at San Antonio (UTSA) テキサス大学サンアントニオ校

UTSA opens nation’s first bookless library on a university campus http://www.utsa.edu/today/2010/09/aetlibrary.html

University Of Texas Opens First Bookless College Library http://www.citytowninfo.com/career-and-education-news/articles/university-of-texas-opens-first-bookless-college-library-10091702

Nation’s first bookless library on university campus is thriving at UTSA http://www.utsa.edu/today/2013/03/aetlibrary.html

(2) Florida Polytechnic University (FPU) フロリダポリテクニック大学

New Florida University Unveils Bookless Library http://lj.libraryjournal.com/2014/08/academic-libraries/new-florida-polytechnic-unveils-bookless-library/ 

Florida Polytechnic University opens with a bookless library http://www.latimes.com/books/jacketcopy/la-et-jc-florida-polytechnic-opens-with-bookless-library-20140820-story.html

2) ブックレスを目指す図書館

(1) Kansas State University カンザス州立大学

Fiedler Engineering Library  http://www.lib.k-state.edu/fiedler-engineering-library

(2) Stanford University スタンフォード大学

‘Bookless’ library at Stanford looks to the future http://news.stanford.edu/news/2010/july/enginbooks-072610.html

(3) University of California, Merced カリフォルニア大学マーセド校

University of California Merced Library http://askus.ucmercedlibrary.info/a.php?qid=166311

(4) Johns Hopkins University ジョンズ・ホプキンス大学

New Florida University Unveils Bookless Library http://lj.libraryjournal.com/2014/08/academic-libraries/new-florida-polytechnic-unveils-bookless-library

Major Medical Library Closing Its Doors to Patrons and Moving to Digital Model http://www.thedigitalshift.com/2011/10/research/major-medical-library-closing-its-doors-to-patrons-and-moving-to-digital-model/

Collections of the Welch Medical Library http://welch.jhmi.edu/welchone/Collections-of-the-Welch-Medical-Library

Bookless library opened by new US university http://www.theguardian.com/books/2014/aug/29/bookless-library-new-us-university-florida-polytechnic-digital

2. 公共図書館

1) BiblioTech Digital Library

San Antonio, Bexar County Debate Library Funding http://lj.libraryjournal.com/2014/10/budgets-funding/san-antonio-bexar-county-debate-library-funding/

Libraries without physical books find a niche in San Antonio http://www.washingtonpost.com/blogs/innovations/wp/2014/12/16/libraries-without-physical-books-find-a-niche-in-san-antonio/

New digital library opens at Bexar County Courthouse http://www.mysanantonio.com/news/local/article/New-digital-library-opens-at-Bexar-County-5146049.php

Is a library still a library if it has no physical books? http://www.mnn.com/lifestyle/arts-culture/stories/is-a-library-still-a-library-if-it-has-no-physical-books

2) Omaha Public Library

Non-Profit Group Plans to Open Omaha’s First Digital Library, Omaha Public Library Will Be a Partner http://www.infodocket.com/2014/12/03/plan-to-open-omahas-first-digital-library-announced-omaha-public-library-will-be-a-partner/

Ex-Omaha bookstore to convert into digital library http://journalstar.com/news/state-and-regional/ex-omaha-bookstore-to-convert-into-digital-library/article_1de8d366-1291-554c-91ce-dd8021ba214a.html

Omaha’s 1st digital library planned at 72nd, Dodge on ex-Borders site http://www.omaha.com/news/metro/omaha-s-st-digital-library-planned-at-nd-and-dodge/article_91d9bfd6-7b1a-11e4-bf75-e31e4b226470.html

3. 学校図書館

1) Cushing Academy

Cushing Academy Library http://www.cushing.org/Page/Academics/Library

2) BenildeSt. Margaret’s School

Stacks of books are history at Benilde library http://www.startribune.com/local/184776101.html

School Library Thrives After Ditching Print Collection http://www.thedigitalshift.com/2013/01/k-12/school-library-thrives-after-ditching-print-collection/