米国の大学に広まるAmazonのアンストア(実店舗/ピックアップストア)

米国の大学への進出を狙うAmazonは、キャンパス内にアンストア(unstore=実店舗)を開設する戦略を展開している。開設済み・開設予定のアンストアがある大学の数は、17あるいは18とする記事も見受けられるが、9月30日現在で、少なくとも16校あることが確認できた。

  1. アンストア(unstore)とは

Amazon.comのCEOであるJeff Bezos氏が、無限の棚スペース、パーソナライゼーション、新商品と中古品の並置、否定的なコメントの受け入れなど、小売店の通常のルールが当てはまらないAmazonのコンセプトを説明するために創り出したのが“unstore”(実店舗)という語である(2003年)。しかし、アンストアが大学キャンパスに出現するまで、それから12年の年月を要した。通常、アンストアでは店員がカスタマーサービスを提供するが、主な機能は注文品のピックアップであることから、ピックアップストアとも呼ばれることが多い。本記事では、この後はピックアップストアと呼ぶことにする。

  1. Amazonと大学のパートナーシップ開始

Amazonは、大学書店とAmazonのパートナーシップを試すために2013年9月、カリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis: UC Davis)の書店において、一年間のパイロットプログラムを開始した。そして、その4カ月後の翌年1月には、UC Davis書店がAmazonのアフィリエイトの役割を果たす、と正式に発表された。UC Davis書店は、Amazon.comのサイト上に専用のポータルページを持ち、学生たちが買いそうな書籍を掲載する。このポータルは機能的にはAmazonの一部であり、書籍の注文はAmazonのネットワークを介して遂行される。大学は、ポータルページを経由した売り上げの2%のコミッション(アフィリエイト報酬)を得る。それに加えて、Amazon学生会員のプログラムに加盟したUC Davisの学生が、書籍以外に購入するすべての品物に対しても、大学にはコミッションが支払われる。一年間のパイロットプログラム期間中に、Amazonから大学側に支払われたコミッションの総額は25万ドルに達したことが報告されている。

  1. Amazonピックアップストアの登場

Amazonは2015年2月、カスタマーサービス・カウンターを持つピックアップストアを、インディアナ州のパデュー大学(Purdue University)に設けた。これが、大学キャンパス内に設けられた最初のピックアップストアである。続いて3月には同大学内に、2番目のピックアップストアもできた。8月には、マサチューセッツ大学アマースト校(University of Massachusetts at Amherst: UMass Amherst)にも、店員のいるピックアップストアが開店した。これまでに、以下の8大学にピックアップストアが開店したことが確認できた。(年月は開店時期を示す)

(1) パデュー大学(Purdue University インディアナ州):2015年2月

(2) マサチューセッツ大学アマースト校(University of Massachusetts at Amherst: UMass Amherst):2015年8月

(3) カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley):2016年1月

(4) ペンシルバニア大学(University of Pennsylvania):2016年5月

(5) カリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis):2016年6月

(6) ジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology):2016年7月

(7) イリノイ大学シカゴ校(University of Illinois at Chicago):2016年8月

(8) テキサス大学オースティン校(University of Texas at Austin):2016年8月

 

2016年中に、更に以下の3校で、ピックアップストアの開設が予定されている。

(1) カリフォルニア大学ロングビーチ校(California State University, Long Beach)

(2) イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois at Urbana-Champaign)

(3) ウィスコンシン大学(University of Wisconsin)

上記のピックアップストアは、キャンパス内に開設されたものだが、それ以外にも、大学の学生とその近辺のコミュニティーの両方をターゲットとして、大学の近くに設けられたピックアップストアもある。既に4つの大学の近辺に開設されており、2016年中に少なくとも、もう1か所が予定されている。

(1) カリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California, Santa Barbara)の近辺:2015年11月

(2) シンシナティ大学(University of Cincinnati オハイオ州)の近辺:2016年1月

(3) アクロン大学(University of Akron オハイオ州)の近辺:2016年6月

(4) コネティカット大学(University of Connecticut)の近辺:2016年8月

(5) テキサス工科大学(Texas Tech University)の近辺:2016年秋予定

  1. Amazonとピックアップストアが結んだ契約の内容

Amazonと大学は個別に契約を結んでおり、その内容は公式には公開されていないが、様々な記事に紹介された情報からは、次のような共通点が浮かび上がる。

(1) コミッション

Chronicle of Higher Education誌によれば、Amazonと契約を結んだ大学は、専用のポータル上で注文し、配達された全ての品物について、その金額の約2%を得ることができる。例えば、パデュー大学とマサチューセッツ大学アマースト校は、注文された品物がキャンパス内に発送された場合は最大2.5%、キャンパス外の住所に発送された場合は0.5%のコミッションを得る。カリフォルニア大学デービス校が受け取るコミッションは、0.5%〜2.25%である。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校は、キャンパス近辺の住所に発送された場合は1.5%、それ以外の場所に送られた場合は0.5%を受け取る。

Amazonは契約の中で、各大学に支払う年間最低金額を約束しており、その中のいくつかが明らかにされている。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校が25万ドル、ウィスコンシン大学が10万ドルである。マサチューセッツ大学アマースト校とは3年契約が結ばれており、1年目37.5万ドル、2年目46.5万ドル、3年目61万ドルの計145万ドル、パデュー大学は4年契約で総額170万3千ドルが保証されている。

(2) Amazonプライム会員とプライム学生会員へのサービス

Amazonプライム会員(年会費:$99)とプライム学生会員(6ゕ月間無料、その後は年会費$49)には、Amazon.comで正午までにオーダーされた品物の当日ピックアップと、午後10時までのオーダーの1日以内のピックアップが無料提供される。

(3) 注文品の受け取りと返品

注文品がピックアップストアに到着すると、ストアの店員が品物を、設置されたロッカーに入れる。注文主にはバーコードを知らせる電子メール、あるいはテキストメッセージが送られるので、それをスキャンすることにより、セルフサービス・ロッカーを開くことができる。あるいは、ピックアップデスクで受け取ることもできる。カウンターで、またはロッカーを利用して返品することも可能で、そのために必要な箱、包装材料、配送先ラベルが印刷できる装置が用意されている。

  1. 他社のキャンパス内書店

現在、米国の大学キャンパス内で最も多くの書店を経営しているのはFollettで、その数は総数1,200を超える。それに続くBarnes & Noble Collegeの書店数は751で、この2社を合わせるとほぼ2,000店に達する。この数に比べれば、Amazonの実店舗の数は現在のところ、はるかに少ないが、今後増えるであろうと予想されている。

参考資料

  1. アンストア(unstore)とは

Amazon at 20: billions, bestsellers and legal battles. The Guardian. July 21, 2014 https://www.theguardian.com/technology/2014/jul/21/amazon-20-years-jeff-bezos-history-bestsellers-legal-battles 

  1. Amazonと大学のパートナーシップ開始

UC Davis partners with Amazon to deliver new services for students. Sacramento Bee. February 13, 2015. http://www.sacbee.com/news/local/education/article9572906.html

Amazon is Prepping for a Conquest of College Bookstores. Digital Reader. November 27, 2015. http://the-digital-reader.com/2013/11/27/amazon-prepping-conquest-college-bookstores/

  1. Amazonピックアップストアの登場

Amazon is Prepping for a Conquest of College Bookstores. Ink, Bits, & Pixels. November 27, 2013. http://the-digital-reader.com/2013/11/27/amazon-prepping-conquest-college-bookstores/

Amazon’s Conquest of Brick-and-Mortar Retail Stalls as it Gains a Partner, and Loses One. Digital Reader. August 13, 2014. http://the-digital-reader.com/2014/08/13/amazons-conquest-brick-mortar-retail-stalls-gains-partner-loses-one/

  1. Amazonとピックアップストアとの契約の内容

Amazon to Open Pickup Location at the University of Wisconsin Madison. Digital Reader. August.18, 2016 http://the-digital-reader.com/2016/08/18/amazon-open-pickup-location-university-wisconsin-madison/

Amazon at Your Campus: The Next-Generation Campus Store. Publishers Weekly. May 22, 2015 http://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/industry-news/bookselling/article/66744-amazon-at-your-campus-the-next-generation-campus-store.html

5. 他社のキャンパス内書店

Follet. https://www.follett.com/BOOKSTORES

Forbes. http://www.forbes.com/companies/follett/